大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(く)70号 決定

本件即時抗告の理由の要旨は原裁判所は土川健一は昭和二七年四月二八日東京地方裁判所において、業務上横領罪によつて懲役一年に処せられ四年間右刑の執行を猶予された者であるが、右猶予期間内に更に昭和三〇年六月一三日東京地方裁判所において、脅迫、傷害罪によつて罰金一万円に処せられ、この判決は同月二八日確定したものであるとして、右刑の執行猶予の言渡を取消す旨昭和三〇年九月一七日決定し、この決定は同年一〇月五日抗告人に送達されたものである。

しかし右刑の執行猶予の言渡をうけた罪は業務上横領事件であつて所謂財産犯に属するものである。ところが今回の罰金刑を言渡された罪は、脅迫、傷害事件であつて、財産犯とは全く異つた身体犯である。即ち財産犯についての刑の執行猶予を認められたものを全く罪質の異つた身体犯によつて右刑の執行猶予の言渡を取り消した原裁判は刑法第二六条第二項の立法趣旨を誤解したものというべきである。

又、右脅迫、傷害罪はその犯情まことに軽微であつて、罰金刑に処せられているのであるから、これを理由に右刑の執行猶予を取り消した原決定はいずれにしても失当というべきである。よつて右決定を取り消し更に相当の裁判を求める為に本件即時抗告に及ぶというのである。

そこで本件記録及び抗告人に対する東京地方裁判所昭和二十九年(わ)第三、五五一号、脅迫、傷害被告事件記録を調査して按ずるに、抗告人が所論のような執行猶予の判決をうけていたところ更に脅迫、傷害罪で罰金一万円に処せられたので検察官の請求により、原裁判所が右刑の執行猶予の言渡を取消す旨の決定をしたものであることは所論のとおりである。

而して右脅迫、傷害罪はその犯情は比較的軽微であると認められた為に罰金刑に処せられたものであることも所論のとおりと推定せられ、又刑法第二六条第二項は刑の執行猶予期間内に再び罪を犯し罰金刑に処せられたときは右刑の執行猶予の言渡を取り消すことができる旨定めているのであつて、必ず取り消さなければならないものではないことも明白である。

しかし、この刑の執行猶予の言渡を取り消す場合は前の執行猶予の言渡をうけた罪と、後の罰金刑に処せられた罪とが、同一罪質のものに限るべきものとは解せられないのである。又後の罰金刑に処せられた罪の犯情が比較的軽微であつても諸般の事情から考えて取り消すことが相当と認められるときは取り消しうるものであることは言うまでもないところである。

今本件についてこれを見るに、右脅迫、傷害罪の案件は罰金刑に処せられてはいるけれども、犯罪の情状は必ずしも偶発的単純軽微のものとは認められないのである。その他抗告人の性行境遇等諸般の事情を勘案すれば原裁判所が右刑の執行猶予の言渡を取消したのは相当と認められ、これをもつて失当とは未だ認め難いところである。

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